鬼魂号(ACE):物語的または設定的な補足

物語的または設定的な補足


 フィーブル藩国の砂浜で再会を果たした鬼魂号とイイコちゃんを、フィーブル藩王が遠巻きに見つめており、それらの様子をさらに遠くから双眼鏡で観察しているのが、フィーブル藩国摂政の戯言屋であった。戯言屋は、しばしその様子を眺めた後、少し微笑み、そして身を翻して政庁に向かう。摂政の仕事を始めることにしたのだった。

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 他のACE達と同じようにACE召喚装置などによる安全な方法で現れた鬼魂号を、フィーブル藩国は客人として迎えることにした。客人(イイコちゃん)の知り合いが藩国に逗留するのであれば、それもまた客人として扱うべしである。このことは藩国政府の決定として広報が行われ、設定国民レベルまで周知が行われた。

 フィーブル藩国の国民達としても、過去に何度か自由号に藩国の危機を救われたことを覚えているものも多く、きっとこれも自由号のような良き存在なのだろうと思ったようだった。とはいえ他の藩国からは、テラ領域の防衛力が増したと素直に喜ぶ人間もいただろう。その点についてフィーブル藩国政府は声明を発表した。その内容は概ね以下の通りである。

“鬼魂号は客人であり、本人またはイイコちゃんが望まない如何なる行動も強要するものではない。また鬼魂号に関する技術などは研究も応用も行わず、ただイイコちゃんや鬼魂号の許可を得て、整備やメンテナンスなどを、もてなしとして行うのみである。大事なことなので繰り返すが、鬼魂号はフィーブル藩国の客人である。我が藩国は客人に対して失礼なことは行わない。”

 このあたりの根回しを行ったのが、フィーブル藩国摂政の戯言屋である。
 戯言屋は現実志向というか、フィーブル藩王がスーパーロボットタイプなら戯言屋はリアルロボットタイプだった。ありていに言えば、フィーブル藩王の念願が叶ったことや、イイコちゃんが鬼魂号と再会したことは喜ばしいが、謎の技術がたくさん使われているので技術流出して爆発したら嫌だなと考えて、次に鬼魂号のAIが暴走する可能性について考えて、さらにしばらく後、敵の謀略によってプレイヤー達が災害の原因とされる危険性を思いついた。なんというか、まさに夢も希望もない話だが、ニューワールドは大体そういうことが起こるところであり、実際に似たような例もある。

 そのあたりの問題を解決するために考えたのが、鬼魂号を客人として扱い、イイコちゃんにリミッター役をお願いすることである。この場合のリミッターとは、どちらかといえば第七世界人達に対するものである。もちろん何らかの、ニューワールドの全藩国でもどうにもならないような差し迫った災害などが起これば、選択肢として鬼魂号に頼るという判断も行うが、それはイイコちゃんや鬼魂号に誠心誠意お願いするという形になるだろう。まあ、このへんは鬼魂号と関係なく逗留ACE全てがそうあるべきだが。

 戯言屋は、鬼魂号を兵器的に運用してどうこうという考えは捨てていた。そもそも、この世に絶対無敵で絶対正義の夢のようなロボは存在しないか危険だと考えており、さらに言えば、鬼魂号が無ければ負けるほどニューワールドは弱くないとも思っていた。一応、本当に正義の味方なら誰に言われるでもなく勝手にやるだろうとも計算には入っていたが、それに期待する気もなかった。それはただの甘えである。

 では、なぜフィーブル藩国は鬼魂号を召喚したのか?
 兵器的運用も想定せず、貴重な藩国枠を1つ使って、鬼魂号を呼んだのか?

 ……その答えは、……本当に、本気で、純粋に、冗談抜きの嘘っこ抜き、さまざまな神とついでに芝村さんに誓って…… フィーブル藩王の夢だったから。以上終わり。である。

 戯言屋摂政としては、藩国枠にも微妙に余裕があるし、一時期は焼け野原だったフィーブル藩国もだいぶ復興したので、そういう記念のようなものも兼ねつつ、またフィーブル藩国復興のためとはいえ、かなり事務的というか、面白味のないアイドレスの取得ばかりを行ったので、たまにはこういうのも良いと思っていた。だから戯言屋にとっては、双眼鏡から見えたあの風景の瞬間こそが目的であった。

 そして、それが終わった後には、現実が待っている。
 夢と現実は対であり、その両方が備わった時に、真の完成を迎える。

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(……災害を防ぐのは……)
 あれこれと対策の指示を出しながら、戯言屋は考える。

 この世に絶対無敵で絶対正義の夢のようなロボは存在しないか危険だと思うが、それでも、もし、そんな存在がいるとしたら。全自動消防消火災害救助システムが人の形をして、この世界の、この藩国にいるとしたら。

 戯言屋が思うことは、ただひとつである。

(……災害を防ぐのは……自分達だ。まずは自分達が災害から人々を守らなければならない。その心こそが重要だ。何の災害対策も行わず、都合が悪くなったから鬼魂号を頼るというのは、やはり良くない気がする。そのために鬼魂号が造られたとしても、その前に自分達はやるべきことをやるべきだろう。それでこそ、いざという時に、正々堂々と鬼魂号を頼れるというものだ……)

 俺が、俺達が鬼魂号だ。
 リアルロボットタイプっぽい感じで、そう思った。

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